昨年の秋、師匠が引越しをしました。30数年間暮らしたという一戸建てから、初めてのマンション生活です。やはり、「捨てる」ことはかなり難しかったようです。30数年間で、家の中に増えてゆくモノがどのくらいあるのか、引越しの大変さは容易に想像できます。とりわけ、大学で教えることを生業としていると、本が増えます。家に持ち帰るのは数冊ずつでも、それが毎日の生活なのですから、相当な分量になるはずです。それでも、引越しにあたって、本もふくめてかなり多くのモノを処分したとのことです。

ぼく自身は、あらためて数えてみると、生まれてからこれまで13回くらいは引越しをしてきました。引越しのたびにいろいろなモノを捨て、でもあたらしい場所でまたモノが増えて…という繰り返しです。いざ「捨てる」となると、また必要になるかもしれない…とか、これは思い出ぶかいモノだから…とか、いろいろな理屈をつけてはあたらしい段ボール箱が増えてしまうのが実情です。引越しが多いと、じぶんにとって本当に必要なモノがわかるので、よりシンプルな生活スタイルになる、などと言うひともいますが、ぼくにはムリのようです。むしろ、引越しのたびに一緒に移動しているモノたちには、より愛着がわいているようにさえ感じます。

書斎には、いずれ手をつけようと思って、まとめられている本や資料もあります。つまりそれは、これからの活動のための“まとまり”です。話によると、引越しの際には、こうした“まとまり”もいくつか処分したそうです。物理的なスペースがかぎられているとはいえ、これには少々驚きました。なぜならば、それは「未来を捨てる」ことだからです。ぼくの書斎にも未来のための“まとまり”(=これから読まなければならない本・読みたい本の束です)がいくつかありますが、それを捨てるなどということは、いまはできません。かなりの勇気(と達観)を必要とする決断です。年を重ねてこそ、また大きなしごとを成し遂げてこそ可能になるようにも思えます。

おそらく、(モノとしての)過去を、あるいは未来を捨てたとしても、それが失われることにはならないのでしょう。「失う」のではなく「書き換えられる」ということなのかもしれませんね。モノを捨てて、過去や未来を「書き換える」ことによってのみ実感できる現在(いま)がある…。そんなことを考えつつ、無事に新年を迎えました。早々に、部屋を片づけてみます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

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