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「自分ごと」と「他人ごと」のあいだに、「自分たちごと」があります。それは、マスでもなく、パーソナルでもない、中間の領域です。この、「自分たちごと」ということばをはじめて聞いたのは、2007年の2月、渡辺保史さんにお声がけいただいて、「縮小する都市の未来を語る:コミュニティに根ざした情報デザイン」というセッションに参加したときです。今年はじめにISCAR Asia2010に参加したときにも、杉浦裕樹さんの発表用スライドに書いてありました。渡辺さんに聞いてみたところ、もともとは、「共有のデザインを考える」というトークセッション(2002年5月:仙台メディアテーク)で、参加者のひとりが使ったことばのようです。
…一つは先ほど「自分事」「他人事」というお話がありましたが、僕自身、建築計画に関わる中で最近痛感しているのは、実はその二つの間にもう一つ、「自分たち事」という部分があるのではないかということです。
自分の部屋の中とか、あるいは自分が欲しいものといった個人的なことではなく、たとえば、プロジェクトにいろんな人たちが関わってうまく進んでいく。これは個人の内側にある自分事でも、自分とは全く無関係に切り離された他人事でもない、その中間です。…
「共有のデザインを考える」スタジオ・トークセッション記録 Chapter 1:人が生き生きとする場所のデザイン(p. 22-23)より
そして、「自分たち事」ということばが、とてもいい表現なので、みんなで使い始めた…とのこと。これは、ぼくたちが標榜する「キャンプ」の考え方を深めてゆく上でも、示唆に富んだコンセプトです。とくに、フィールドワーク先で制作するビデオクリップやポスターなど、“ちいさなメディア”と呼んでいるものは、マスメディアでも、パーソナルメディアでもない存在です。それは、特定少数の人びとを結びつける(さらに、その関係を維持する)ためにデザインされます。

いっぽう、最近、マーケティング的な観点から、注目されているのは「自分ごと」です。『「自分ごと」だと人は動く』(2009, ダイヤモンド社)という本のタイトルに象徴されるように、人は、何らかの形で当事者意識が刺激されたとき、具体的な行動へと駆り立てられることが多いようです。とくに、情報過多と呼ばれる時代においては、一人ひとりが、上手に情報を取捨選択する術を身につけています。そのなかで、“スルー”せずに敏感に反応するのは、「自分」に関係が深い内容なのかもしれません。どうやって、人びとにとっての「自分ごと」を理解し、メッセージを送るかがマーケティング的な課題になるはずです。その意味で、ぼくたちをとりまく情報環境の変化や、コミュニケーション行動を理解する上で、「自分ごと」という視点は大切です。

しかしながら、ぼくたちの仕事はマーケティングでありません。もちろん、調査・研究をすすめていく上では、読者を想定します。何らかの社会的貢献を目指す場合には、誰に成果を届けたいのかをはっきりさせておく必要があります。でも、それを(狭い意味での)“マーケット”としてとらえることが、ふさわしいかどうか。そろそろ、再考する時期が来ているように感じるのです。
20年ほど前、大学は、学生(新入生)を「顧客」に見立てて、カリキュラムや大学の役割の再定義を試みました。学生が「客」なら、大学は最良の「サービス」を提供し、「顧客満足度」を高めなければならない。これからは、学生一人ひとりの「自分事」を刺激するための講義や演習を提供しよう、ということになるのでしょうか。科目数を増やし、自由度を高めることは、「自分ごと」に向き合っていくためのカリキュラムづくりのように見えます。それでいいのか…。

大学とは? という大きなテーマにつながるので、そう簡単に整理することはできません。一人ひとりの能力や可能性を高めるという意味では、大学は、学生の「自分ごと」に応える準備をしておかなければならないでしょう。ただ、個人的には、「自分事」ばかりでなく、「自分たちごと」についてきちんと考えてみたいと思います。ぼくたちは、ひとり(自分だけ)ではなく、関係性のなかに生きているからです。大学は、「自分たちごと」に向き合い、関与者としての自分のあり方について模索する〈場〉なのではないか。ここ数年の「キャンプ」という実践をつうじて、その確信は強くなりました。少なくとも、従来型のマーケティング的なメタファーでは語り得ないような、「何か」を考えていく必要があると思います。

ぼくたちの関係性に目を向けるとき、誰かと共に居ること、何かに居合わせることの価値が際立ちます。それは、まさに「共有のデザイン」なのであり、「自分たちごと」について自覚的になるということなのでしょう。

(♪さあ冒険だ - 矢野顕子)

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