モバイルリサーチとコミュニティづくり(B41)
加藤文俊研究室では、地域コミュニティのなかで創造性に富み、活気のある「グッド・プレイス」を成り立たせる要件を、コミュニケーション論の観点から調査・研究しています。全国各地で、モバイル・メディアを活用したフィールドワークやワークショップを実施し、その成果をもとに、地域メディアのデザインを試みています。今回は、過去数年の成果をふり返るとともに、これからの“リサーチ・キャラバン”の方向性を提案します。
“装備”としてのケータイ
近年のケータイの受容・普及はめざましく、いまや「通話」から「通信」のための装置として私たちの日常生活に浸透しています。ケータイは身体の拡張として機能し、さまざまなデータや情報がケータイの“メモリ”として蓄積されるようになりました。なかでも付加機能としてのカメラは、あたらしいタイプの写真、写真撮影の実践をも生み出しつつあります。写真の撮影、送受信(MMS)、ウェブ等での公開がきわめて容易となり、カメラ付きケータイは、手軽なデジタルカメラとして、私たちの日常生活の出来事を記録・蓄積し、“絶え間なき交信”のなかで「生活記録(life document)」を生成し続けています。
また、マーケティング等の分野を中心に、カメラ付きケータイを活用した「モバイルリサーチ」の可能性が注目されています。加藤研究室では、2002年秋ごろから、フィールドワークをはじめとする定性的な社会調査法において、カメラ付きケータイの活用を試みてきました。地域コミュニティの資源を評価・再評価することは、まちづくりやコミュニティ・マネジメントの問題のみならず、私たちが“生活者”として共有する「社会的記憶」や「パブリック・ヒストリー」の問題、さらには魅力のある“場(場所)”の要件を考えるうえで、きわめて重要です。コミュニティにおける問題を多面的に理解し、コミュニティのメンバーどうしで共有するための仕組みづくりや学習環境のデザイン(体験学習のプログラム化など)にも貢献しうると考えられます。
デザインするフィールドワークをデザインする
「モバイルリサーチとコミュニティづくり」は、カメラ付きケータイをはじめとするモバイルメディアを、地域コミュニティの評価・再評価のためのデバイスとして活用する試みです。そのための方法として、フィールドワークを重視します。身近な場所はもとより、できるかぎりフットワークを軽くして、見知らぬまちを訪れます。さまざまなモバイルメディアは、私たちの五感とともに、観察・記録の可能性を拡げ、まち歩きの経験を豊かにするのです。
フィールドワークをつうじて、地域コミュニティに偏在する多様な“グッドプレイス(good place)”をさがし、その成果はポストカードやまち歩きの音声ガイド(ポッドキャスト)、電車の中吊り広告、ゲーム、CM映像などのフォーマットでまとめ、地域での配布・流通の仕組みを考案します。絶えず蓄積されてゆく「生活記録」を編纂することによって、あたらしい地域メディアのデザインをすすめます。
よそ者・若者・バカ者
最近、まちづくり・地域づくりには、「よそ者・若者・バカ者」が役に立つ…とよく耳にします。あたりまえになりすぎて、見えなくなってしまいがちな日常生活に気づくためには、どうやら「外から」の視点が大事だということです。そして、しなやかで大胆な発想は、若さや思い切りのよさによって、もたらされることも少なくありません。きっと、大学生は、「よそ者・若者・バカ者」の代表なのです。自負をもって、そして、じぶんたちの「立場」をきちんと理解して、フィールドワークをすすめれば、微力ながらも、地域コミュニティにとって有意味な役割を果たすことができるはずです。
私たちは、一連のモバイルリサーチの試みをつうじて、あらためて、地域と大学との関わりについて考えています。重要なのは、“ビジネス・モデル”ではなく、“ボランティア・モデル”ともいうべき、あたらしい関係性を模索することです。大学生ならではのフットワークで人びとの暮らしを見つめ直し、地域コミュニティに問うためのプロジェクトを企画・運営しています。
2007年度に実施したプロジェクト
それぞれのプロジェクト紹介のサイトにリンクされています。
湘南フィールドワーク
2007年4月〜7月にかけて、江ノ電沿線を中心とするエリアのフィールドワークをおこないました。2か月半にわたる調査の成果は、中吊り広告のフォーマットでまとめ、江ノ電の中吊り広告として車内に掲出しました。
坂出フィールドワーク
2007年8月4日 (土) 〜 5日 (日)、坂出市(香川県)の商店街を中心とするエリアでフィールドワークを実施しました。5人ほどのグループに分かれてインタビューや調査をすすめ、その成果は30秒のCM映像にまとめました。
函館フィールドワーク
2007年9月29日 (土) 〜 30日 (日) にかけて、函館市(北海道)でフィールドワークをおこないました。函館市電沿線を歩き、調査の成果は、市電の中吊り広告としてまとめました。ちょうどORF2007の両日をはさむ日程で、11月19日(月)〜12月2日(日)まで、函館市電に掲出されます。