連れてって

加藤文俊研究室の主要なテーマは、人びとにとって「居心地のいい場所(グッドプレイス)」とは何かについて考えることです。わたしたちが、絶え間ないコミュニケーションのなかに「いる」存在だということをふまえて、まずは、日常生活をつぶさに観察することからはじめます。
今年度は「連れてって」というテーマで、調査研究をすすめています。いつ・どこで・誰と・どのように過ごすのか。わたしたちにとって“大切なひととき”は、どのように生まれるのか。 一連のフィールドワークの成果をもとに、わたしたちのコミュニケーションを息づかせる「モバイル・キット」のデザインを試みています。

Take Me Out

Our project aims to explore the ways in which various “good places” are shaped and reshaped through our communication processes. Acknowledging that we are always “in-communication,” our research begins with a series of critical observations of our day-to-day activities.
Currently, we are conducting a field research under the title “Take me out.” There, we attempt to identify when, where and with whom our “precious moments” are organized and become available. Based on the findings and ethnographic accounts, we will design a set of “mobile kits” that enables us to promote our communication while we are on the move.

2015年度は、「爽やかな解散」というテーマで活動しました。場づくりの試みが一度かぎりにならないためには、設営や撤収のありように着目する必要があると考えたからです。このプロジェクトをとおして、上手に「別れること」「解散すること」こそが、私たちの活動の持続性を高めるということにあらためて気づきました。つまり、よりすみやかに軽やかに場をつくる方法や態度が求められているのです。
◉図版(左から):どこでもスタンプ(井上涼, 小田島純, 土屋麻理)・みちばたラヂオ(此下千晴, 西崎和希, 長谷部裕則, 家洞李沙)・放課後こくばんクラブ(笹野利輝, 武市陽子, 橋本彩香)・ルイス(阿曽沼陽登, 梅澤健二郎, 上ケ市亜矢, 檜山永梨香) [いずれも2016年2月6日(土)〜8日(日)にかけて「フィールドワーク展Ⅻ - こたつとみかん」で展示しました。 http://vanotica.net/wsmab/

日常はハプニングの連なり

ごく自然にできるはずのことが、なぜか上手くいかない。ぎこちなさを感じながらも、コミュニケーションせざるをえない。わたしたちの日常生活は、起伏に富んでいます。しかしながら、こうした悩みやストレスの多くは、コミュニケーションをとおして乗り越えることができる。そう考えるところから、場づくりがはじまります。場づくりの基本は、時間と空間を整えること --- 一緒にいること ---だからです。
わたしたちは、コミュニケーションの状況を考えながら、さらにさまざまな道具を駆使して場づくりに向き合います。“大切なひととき”のために何を厳選し、どのように持ち運ぶのか。自前で用意しなくても、現場で調達できるモノがたくさんあることにも気づきます。

Things happen everyday

Somehow, many things do not work out naturally as we expect. Still, we cannot not communicate even with a sense of awkwardness. Our day-to-day mundane is full of happenings. However, we think that we can get over these worries and stresses through communication. And thus, we begin to speculate upon the notion of place-making as its basic idea is to organize our use of time and space -- to get together.
We further attempt to utilize various tools in the process of place-making, by understanding the given situation. What are the tools that we select and carry around? What are the important aspects in realizing our “precious moment”? In the process, we also recognize that there are many tools and artifacts available on site, so that we do not have to prepare and carry everything.

三回おいしい
(柿嶋夏海, 津田ひかる, 中原 慎弥)

ぎこちなさでふっとばす
(塙佳憲, 保浦眞莉子, 吉澤茉里奈)

大切なひとときのために

わたしたちは、場づくりのために、過去の経験や知恵をつぎ込みます。そして、相手が親しい友だちであるならば、わざわざ大げさなお膳立てなどせずに、じつは〈いつでも・どこでも〉かまわないのではないかと思いいたるのです。つまり“大切なひととき”は、気兼ねすることなく、ごく自然に「連れてって」と言うだけで実現するものなのかもしれません。結局のところ、準備に気を取られることなく、手ぶらを楽しむということなのでしょうか。きっと、手ぶらの気軽さは格別です。時間や空間、さらにはさまざまな道具立てからも解放されるからです。
わたしたちが、場づくりについて考えたり実践を試みたりするのは、いずれは多くのモノを手放して、身軽になるための準備なのです。手ぶらになってこそ、「連れてって」と思えるような関係をつくりたいのです。

For our precious moment

We attempt to organize time and space based on our past experiences and expertise. And if we are to get together with close friends, for instance, we acknowledge that it could be anytime and anywhere, so that we do not have to worry about a series of adjustments and preparations in advance. In other words, our “precious moment” will become available by simply saying “take me out” in a casual fashion. It may suggest that, eventually, a place-making can be realized even when we are empty-handed. There is no doubt that we will feel comfortable when we are empty-handed, freed from thinking about time, space and other tools/artifacts.
In understanding the ways in which we go about place-making activities, we are gradually preparing to let things go and to stay mobile. We are all eager to develop relationships with others in which we can say “take me out” spontaneously.

旅からはじまる
(金美莉, 高橋茉鈴, Nuey Pitcha Suphantarida, 比留川路乃)

究極の再会
(佐々木瞳, 田島里桃, 最上紗也子)

うごけよつねに

2017年度秋学期は、5つのグループに分かれて、場づくりのための「モバイル・キット」のデザインに取り組んでいます。“大切なひととき”は、いつ・どこで・誰と・どのように実現するのか。キャリーカートから自転車まで、あらかじめえらばれたアイテムを改造・改変しながら、それぞれの「問題」に向き合っています。プロジェクトの成果は、2018年2月3日(土)〜5日(月)にかけて開かれる「フィールドワーク展XIV:いろんなみかた」で展示する予定です。

Stay mobile and carry on

In Fall Semester 2017, five groups are attempting to design “mobile kit” for place-making activities. That is to envision and identify when, where, with whom, and how our “precious moments” will be realized. From a carry cart to a bicycle, each group is trying to modify and redesign a range of selected items (vehicles) based on their own “issues”at hand.

「おじいちゃん」と語るキャリーカート

日常生活の中でよく目にするキャリーカートを使って、「おじいちゃん」と会って話せるようなキットをデザインしています。 この活動は、ふだん私たちの世代と交わらない「おじいちゃん」たちがどう人生を紡ぎ、どうやって暮らしの知恵を身につけてきたのか、いわゆる定型の語りではない、彼らにとっての〈あたりまえ〉を聞きたいという思いからはじまりました。今までの暮らしや出来事について、より話しやすくなるきっかけをこのキットには載せるつもりです。現在は、フィールドワークとモノの改良を重ねています。

まちを掃除するキックスクーター(OLAF)

私たちのグループはOLAFというキックスクーターをとおして、人びとの生活のなかに、大きくはないけれど、一瞬でも心が豊かになるような瞬間を創りたいと考えています。具体的には、「まちを掃除する」という活動を中心に、OLAFに乗って移動しているあいだもまちを掃除できるように工夫することで、OLAFで通った道は常に綺麗な状態にします。人びとがいる空間を少しでも気持ちの良い場所に変えることで、そこにいた人びとが一日のなかでちいさな幸せを感じられるような、そんなきっかけをつくりたいと考えています。

「こんにちは、さようなら、ありがとう、ごめんなさい」が口に出るキャリーバッグ(ZÜCA)

あたりまえであるはずの言葉を、果たして私たちはどれだけ自然に言えているのでしょうか。他者とのちいさな言葉の交わし合いで、ささやかな幸せは生まれます。でも私たちは、それを口に出さないときがあります。もしも、すれ違う人のいろいろな事情を推し量ることができれば、あたりまえの言葉はもっとすんなりと出てくるのかもしれません。私たちは〈他者への想像力〉を鍵に、公共の場を舞台に実験をくりかえしていきます。

モノを包むキャリーワゴン

私たちは、人との偶然の出会いに着目し、出会った人のことを知りたいと考えました。そこで、相手の持ち物をコミュニケーションのきっかけにし、さらにその持ち物を引き立てるラッピングをすることにしました。ふだん使っているモノには、忘れかけていたエピソードや思い出が詰まっています。そのモノを包むラッピングが私たちと相手をつなぎます。包むという動作を媒介として、私たちは相手を知り、その一方で相手には、差し出してもらったモノにまつわる〈ものがたり〉を思い出してもらえるきっかけを提供したいと思います。

まちと親しくなる自転車

「地元を離れ2年近く経ったが、未だにあたらしい土地になじめない」というメンバーの声をきっかけに、彼女が、まちとのコミュニケーションをとおして、まちへ「なじむ」ことを考えています。行き帰りの道は同じ、買い物は決まった店という行動範囲の狭さが、もしかしたらまちとの距離感を生んでいるのかもしれません。私たちは、「これがあったら行きたいところに行ける」そんな相棒のような自転車によって、自分のテリトリーを広げ、まちへなじむきっかけを作れたらと思っています。