DSCF6558.JPG2015年5月の加藤研(エドワード・ホッパーふう)

はじめに

加藤文俊研究室の主要なテーマは、人びとにとって「居心地のいい場所(グッドプレイス)」とは何か…を考えることです。ぼくたちが、絶え間なくコミュニケーションのなかに「居る」存在だということをふまえると、「場所」の問題は、コミュニケーションを理解することからはじまります。たとえば、これまでに、「ちいさなトラック」(2013)や「引っ越しの準備」(2013)というテーマで、場づくりの方法について考えるフィールドワークをおこないました。「居心地のいい場所」をつくるためには、どのような時間と空間の整備が必要なのか、そのための方法や装置について考えているうちに、「別れ」こそが大切であることに気づきました。

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ちいさなトラック(加藤文俊研究室, 2013)|http://vanotica.net/small_trucks/

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引っ越しの準備(加藤文俊研究室, 2013)|http://vanotica.net/moving_out/

名残惜しい気持ち、集ったひとときの痕跡、かなわない(かもしれない)約束、余韻に浸る時間。こうした感情や場面を想い浮かべるとき、ぼくたちが、つねに「移動しているということ(オン・ザ・ムーブ)」を、あらためて実感します。くり返される毎日のなかで、ぼくたちは、「出会うこと」ばかりを考えがちです。身近になったSNSはもちろんのこと、さまざまなメディアは、「つながること」をしつこく要求します。そして、「別れること」には、向き合おうとしない。多くの場合、「つながりを断つこと」は、歓迎されないからです。

でも、あたらしい場所を知り、あたらしい「何か」に出会うためには「移動」しなければならない。もとより、人は人に会うために旅をするのです。フィールドワークもおなじで、「こんにちは」とともに現場に入り、しばらくしたら「さようなら」を告げて調査を終え、つぎの現場へと赴きます。つまり、場づくりの実践をすすめるためには、「別れ方」についてもっと学ぶ必要があるのです。スッキリとした気持ちと手続きで「別れる」ことこそが、つぎの活動をいきいきとさせます。考えるべきは、「爽やかな解散」です。

「爽やかな解散」を理解するために、まずは、移動を前提に活動している人びととの接点を探すことにしました。たとえばフリーマーケット、屋台(移動販売トラック)、大道芸、ストリートミュージシャンなど、じつは、ぼくたちの身の回りには、毎日のように「別れ」をくり返している人びとがたくさんいます。春学期は、グループに分かれてフィールドワークやインタビューをおこない、設営や撤収に必要な態度と方法の記述をおこないました。

確実に存在感を放ちながらも、いつでも簡単に姿を消すことができる、約束はしないのに、不思議なことに、また会える気がする。ぼくたちは、「こんにちは」と「さようなら」を交互にくり返しながら、毎日を過ごしています。それが、「移動しているということ」だからです。

さようなら、こんにちは。
「さようなら」から発想して、つぎの「こんにちは」までの時間や道のりを考えることが、「移動しているということ」を際立たせます。今回のORFでは、爽やかな設営と撤収をくり返すための装置を展示することにしました。いずれも、発展途上の習作です。

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